2017年5月の日記へ2017年2月の日記へ
HOME



■広告

他人の代表 SFチック学園ラブコメディ


他人の代表 ファンタジーコメディ


オリジナル小説をブログ公開(一部課金)


道化童子のツィート  DKDZをフォローしましょう


#taninblogタグ

ブログに関するリアクションに関するツィートはハッシュタグ#taninblog
イベント、発行誌など、他人の代表に関する全般のツィートは、ハッシュタグ#dkdztaninを付けてください。

2017年3月26日の日記 
3月の労働と97。 [小説]
 さて、11月ごろから書き方を変える勉強を始めて執筆に集中していたので、残業が減り、結果収入が減りました。
 このままではまずいと感じたので、3月は残業をするようにしました。
 その結果、3月は物凄く稼げそうなのでGW前に結構金になりそうですが、若干執筆が遅くなってますね、執筆時間はそこまで変わってはいないと思いますが。

 97は書いていますが、今回は緩く交錯法を使っています。
 まあ、これ、GAに送る予定ですけど。
 私、GAで交錯法だと一次通過すらしたことないんですよね。


 最近非常に疲れるのが早い。
 朝起きるのも一苦労だ。
 元々メイフィは朝が強い方ではないが、最近はそれが更にひどい。
 そして、仕事をしていても、ついぼーっとしてしまう。
 理由は分かっている、まともな食事が出来なくなりつつあるからだ。
 あれから寮について訊いて回って、入寮の手続きまではすぐに出来たのだが、入寮は月単位で行われるため、特別な事情でもない限り、月の途中では入寮出来ないことになっているらしい。
 特別な事情に「入社」というのがあったので、私は入社したばかりです、と主張はしたのだが、入社既に四週間経っていれば、入社直後とは認められないようだ。
 その基準がよく分からない。
 その規則に順守する姿勢は、まるでヴェルム次長のようだ、などと心の中で思った。
 メイフィは窓口課に来てからは、ずっとヴェルムに付いていたが、彼は本当にいかなる時も隙がなく、また、行動にブレもない。
 まるでそうしろと命じられたゴーレムのように、ただルール通りに仕事をするだけだ。
 冗談の一つもない。
 たとえ客先で怒鳴られようとも、怒ることもなければ落ち込むこともない。
 ただ、いつも平坦な感情で、淡々と喋るだけだ。
 だから、そんな彼に泣きつくことも躊躇われる。
 これがシャムレナやリーナなら、食費がないと泣きついたら、おごってくれたり、寮に掛け合って早期に入寮できるよう話を通してくれたり、給料の前借を融通してもらえるよう話してくれるなど、何かしてくれることが期待できるのだが、彼にそんなことを期待するのは無駄な気がする。
 おそらく「給料日が前から分かっているのに、何故計画通り消費をしなかったのだ?」などと言われる気がする。
 あくまで、「気がする」なのだが、それは多分、間違っていない。
 別に彼女だって贅沢をしたわけではない、普通に使っていたら、思ったよりもお金がかかっただけだ。
 だが、他の誰でもなく彼には理解してもらえなそうだと思う。
 何しろ彼はおそらく完全に計画通りにしかお金を使わなそうなのだから。
 窓口課の仕事は、兵装課や諜報課に比べるとかなり楽だ。
 ただ、ヴェルム次長の後について行けばいいだけだ。
 初日には思わず感情を露にしてしまったが、それ以降は特にそんなこともなく。
 とりあえず後ろで笑っていて、話を聞いて勉強していればいいのだなと理解した。
 帰り道に分からなかったところを訊くと、即答してくれるので、これで正しいのだろう。
 ただ、最近は頭の回転も遅くなっており、話の内容すら覚えていないこともある。
 それでも、私生活に関してまで小言を言われるのを避けたいと思い、なるべく空腹であることを隠して元気にふるまっている。
 ただ、窓口課は体力はそこまで減らないが、頭はとてつもなく消費するので、困りごともある。
 イルキラ魔兵商会の融資はあの後すぐに認められ、契約の調印と、担保の受け取りのために再び出向いたときも、道中眠ってしまった。
 到着時にヴェルムに起こして貰ったが「今は仕事中だ。睡眠は仕事外で取れ」と注意された。
 それだけで小言もなく、帰りにはこの前と同じ食堂に連れて行ってくれた。
 もしかすると優しい人なのかもな、と油断してしまった。
 その帰りには満腹感でやはり熟睡してしまい、帰ったら長々と説教をされた。
 これはもう全面的に自分が悪いと認めざるを得ない。
 まあ「一度目は許す。だが、同じ注意を二度もさせるな」というのは、本当、分かるから何も言い返せない。
 知らないのは上司が悪いから指導する。
 知っているなら部下が悪いから叱る。
 当然の事だ、何のいいわけも出来ない。
 ともあれ、食事をさせれくれたので、これで後数日、もうミルクしか残っていないが、何とか生きて行けそうだ。
「預かった宝石は兵装課の金庫に預かって貰いたい。任せてもいいか?」
 そう言って手提宝石用金庫を手渡す
「あ、はい。でも何で兵装課なんですか? 窓口課にも金庫ありますよね?」
 どうしてメイフィに頼むのかは分かっている。
 彼は兵装課課長のシャムレナが苦手なのだ。
 だが、そうまでして苦手な兵装課の金庫に置いてもらう必要があるのだろうか?
 置いてもらう以上、取りにも行かなくてはならない。
 だとしたら、自分たちで自由自在に開閉できる窓口課の金庫に置いた方がいいだろう。
「窓口課の金庫なら、私でもお前でも開け方を知っている。となれば、もし私、もしくはお前が裏切れば盗まれてしまう。今回の案件は巨大だ。だから、手提げ金庫の鍵は我々で管理したまま、事情を知らない第三者に預かってもらった方がいいだろう」
「はあ……分かりました」
 言っている意味を理解しないまま、メイフィは兵装課に金庫を持って行く。
 だが、歩いている途中に、ヴェルムの言った意味に気づいてしまった。
 遠回しにではあるが、つまり「お前が盗むかもしれないだろ?」という事だ。
 「金庫の開け方は私でも知っている」などと自分も含めてはいるが、自分で盗むことを想定するはずがない。
 という事はメイフィが盗む可能性があるから、兵装課に預けよう、と言いたいのだ。
 だったら金庫の開け方を教えるな、と言いたい。
 窓口課に入って一週間程度で金庫の位置も開け方も教えてくれたから、信用されていると思っていた。
 ちなみに兵装課や諜報課の金庫は場所すら知らない。
 だから、あんな上司だけど、もう窓口課でいいや、と思っていたのだ。
 まあ、あれで悪い人ではないし。
 一緒にいて楽しくはないけれど、少なくとも大切にされていないとも思えない。
 それが一転して、信用されていないと宣言されたようなものだ。
 腹も立つ。
 しかも使い走りにされている。
 このまま断られたと言って戻ってやろうか?
 いや、そうなるとまた自分の数少ない利用価値がなくなり、そのうち解雇されるかも知れない。
 悔しいが頼みに行くしかない。
 まあ、兵装課は二週間いたことのある部署だから、勝手知ったるところもあるので行きやすくはある。
 まあ、ただ、シャムレナに失格の烙印を押された後などでなるべくなら会いたくはなかったのが。
「失礼します」
「おう、メイフィじゃねえか! よく来たな? やっぱりここにまた赴任されてきたのか?」
 メイフィの姿を認めるグレーの髪に褐色長身の軍服。
 シャムレナは勢いよく立ち上がり、嬉しそうに寄ってきた。
「こ、こんにちは、お久しぶりです」
 その勢いにメイフィは、多少怯えてしまう。
 あ、そう言えばこの人は──。
「久しぶり! んーーっ!」
「んぁっ!」
 勢いよく抱きしめられ、思い切りキスをされる。
 これだけは慣れようがない。
 メイフィのファーストキスは彼女に奪われ、それから何度も奪われているのだが、それでもやはり慣れることはない。
 別に嫌悪感があるわけではなく、どちらかと言えば逆の意味で、なんだか少し気持ちよくなってしまうのだ。
 なんだかそれを拒否したいものの、受け入れたいと思っているこの自分の気持ちが嫌なので、出来る限り避けたい。
「で、どうした? 本当にあの野郎がうちの課に回してくれたのか?」
「いえっ! そうじゃなくって! その……お願いに、来たんです!」
 喜ばれているところを本当に申し訳ないが、自分は別に配属されたわけではない。
 いや、それよりも配属をこんなに喜んでくれるのは、話が違うのではないだろうか?
「お願い? 何のだよ?」
「その……これを、兵装課の金庫に預かってもらえませんか?」
 メイフィは持ってきた金庫を持ち上げる。
「何だよこれ?」
 シャムレナはそれをひょい、と摘み上げて、振ってみたりする。
「今日、お客さんから預かった、金剛石です。次長が兵装課に預かってもらえと」
「はあ? なんでだよ?」
 その名前を出せば不機嫌になることは分かっていた。
 だが、言わなければ説明のしようもなかった。
「この手提金庫の開け方は窓口課が知っています。その上で窓口課以外の金庫に預かってもらうことで、万全の守りの体制にしたいのではないかと。あくまで私の推測ですけど」
「ふーん。あの野郎の考えてることが分かるようになったのか?」
「いえ、正直何考えているのかさっぱり分かりません。ですが、聞けば教えてくれるので、いつも聞いています」
 シャムレナが不愉快になると分かっているが、訊かれたことは正直に答えよう。
 彼女はしょっちゅうキレるが、理不尽に暴力を振るう人間ではないことは知っている。
「まあいいや、追い返すとメイフィが役立たずってことになるんだろ? それは預かってやる」
「ありがとうございます!」
「それはそうと、だ……」
 シャムレナはメイフィに身体を寄せて来て、メイフィはキスを警戒する。
「お前の希望はもちろん、うちの課だよな?」
「え? あれ?」
 親しげに、それこそ、はいと言った瞬間にキスする勢いで身を寄せて来るシャムレナに、自分との認識の齟齬を見つけ、身を反らしつつも疑問を呈してみる。
「私、兵装課には無理だと言われたと聞いたんですけど」
「は? そんなこと一言も言ってねえよ! 絶対にうちに寄こせって言ったはずだぞ?」
 キレるシャムレナ。
 彼女が嘘を言っているようには見えない。
 むしろ、嘘なんて付けそうにない人だ。
 だとすると──。
「あの野郎、人の言葉を曲解して伝えたがったな?」
「ああ、そうかも知れませんね。よく考えたら『失格だ』とは一言も言ってません。『腕力がないから即戦力にはならない』とだけ言われました」
「確かに言ったな? だが、それは言葉の一部分だけを切り取っただけだ! いいか? 私はメイフィに来て欲しい! それだけ覚えておいてくれ。あんなくそ野郎の事なんか信用するな!」
 半ばキレ気味に真正面で言われると、その怒りがこちらにも伝わって来る。
「分かりました。もう信用しません」
 最近になってやっといい人かな、と思い始めたが、やはり駄目だ。
 あの上司は信用出来ない。
 自分は出来る限り奴から離れたい!
「じゃ、これは預かっておくからよ。いいな? きっと戻って来いよ?」
「分かりました。では」
 メイフィは別れの挨拶をして、兵装課の部屋を後にした。
 一呼吸をして落ち着いて考えれば、まあ、あのヴェルム次長なら、どうせ自分が次の部署で手を抜かないように誉め言葉をカットしたのだろう。
 あの人ならやりそうだ。
 そのおかげで諜報課でも頑張ったし、窓口課でも頑張っている。
 結果的にいい効果を上げることが出来た。
 それは自分にとっても嬉しいことだ。
 理解している。
 それは、十分理解しているし、そういう人だと分かっている。
 なのに、どうして自分はこんなに腹を立てているのだろうか?



最終更新 2017/03/26 13:28:17




トラックバック: http://d-maki.jp/tback/tback.php/2017/03/26




2017年3月11日の日記 
鍋と97。 [小説]
 一月以上更新しませんでしたが、書くこともありませんでした。
 そして、今回も特に書くことはありません。
 漫画とアニメを見て、仕事して、小説を書いてるだけの日々です。
 ああ、休日の朝食がお好み焼きをやめて夏くらいから焼きそばとかにして、更に最近は鍋になりました。
 ええ、鍋。
 朝から鍋。
 鍋スープと肉と白菜、キノコ類とか買ってきて煮込むという簡単な料理です。
 何でこうなったかと言いますと、春ごろに薬の副作用で胃がもたれやすくなって、お好み焼きをやめて焼きそばにして、更に普通の味噌煮込みうどんにしてたんですが、1月の雪が降った後くらいにもっと暖まるのがいい、と思って鍋にしてみたのですが。
 価格的に大して変わらなかったので、そのまま鍋になったのですが。
 そろそろ鍋の季節終わりですね。
 今後どうしようか考えているところです。


 さて、今は97を書いています。
 世界観はハイファンタジーに近いですが、完全な剣と魔法の世界でもない感じのふわっとした世界です。
 主人公は世界規模の金融会社の社員で、独自の私兵も諜報機関も保有している組織の話です。


『え? 侵入してきたの? 周辺調査じゃなくて?』
「え? 潜入前に調査がいるんですか?」
 お互いの言っていることに齟齬があることに気づいたのはリーナだけだった。
『いや、そうじゃなくってね……ま、いいや』
 リーナは説明を諦めた。
 ラクシルの事務所に報告に戻ってきたメイフィは、意味も分からないまま首をひねる。
 メイフィに与えられた任務は、とある国の貴族の持ち物である魔道研究所の調査だ。
 研究所に資金を融資している社は、そこで開発されている、魔道具の進捗を知りたいので探ってくるよう命じられたのだ。
 ラクシルの通常の任務では、とりあえず研究所の周辺を歩いて、所員が行きそうな酒場や食堂を探り、話を聞いたり、直接話してみたりすることなのだ。
 メイフィは可愛いし、まだ成熟した女性とは言えない年頃なので、所員の一部は気を引きたくて「どうせ分からないだろう」と話をして、「難しい話だけれどとにかくすごい」と言われたがる者もいるのだ。
 そういう意味で、彼女はぴったりだろう、と行かせたのだ。
 だがそれを、メイフィは研究所に侵入して直接書類を探って来い、という指令だと思い、侵入して、情報を得て来たのだ。
『誰にも見られなかったんだよね?』
「もちろんそんなへまはしません!」
 自信たっぷりで応えるメイファ。
『へえ、情報の精度は高いよね。何が欲しいのか分かって持ってきたみたいだね?』
「そ、そうですか? よかった、ちゃんと仕事出来て」
 ほっと胸を撫でおろすメイフィ。
 彼女はリュークスでは戦力にならないと評価されたと思っているので、ここで評価されないと行き場がないと思い込んでおり、必死に頑張ったのだ。
『ヴェルムさんもよくこんな子を見つけて来たよね』
「え……?」
『彼の人を見る目だけはボクも信頼してるからね』
 自分は、彼に「見つけて」来られたことになっている?
 いや、そんなわけはない、彼がしたことは自分にこの会社を受けろと言った事だけで、彼は何の手助けもしてくれなかった。
 誘っておいて無責任な奴だ、とその時は思ったものだ。
 家族全員を失った自分が、こうして生活を続けられているという事は、まあ、その点に関してだけは感謝してもいいが、別に自分は彼にスカウトされたわけではない。
 ヴェルムの悪口はリュークスで散々聞いた。
 あいつは、成績と手柄のことしか考えていない、感情のない自動操人形(オートマトン)だ。
 あいつが女に言い寄っているところを見たことがない、部長が好きな男色じゃねえか?
 など、そのほとんどは根も葉もない中傷を、シャムレナを中心とした荒くれ者の冗談として言っていることはメイフィも理解している。
 が、そこまで嫌われている彼が、では大物であるかと言われれば、それは否定するしかない。
「わ、私は別にヴェルムさんに見つけられたわけではないです……」
 何となく、自分が彼の手柄になっていることが嫌だと思ったメイフィは、そう反論した。
『え? そうなの?』
「はい、確かに誘われましたけど、それは私に行く当てがなかったから、話のついでに選択肢の一つとして言われただけですし」
 確かに誘われたのは事実だ。
 だが、自分が頑張れば彼の出世になる、という構図が気に入らない。
 いや、もしも彼が本当に自分を誘って、入社も融通してくれたというならまあ、構わないところではあるが。
 実際に志願して、採用されたのは自分の功績だ、それ以外の何者でもない。
『でも、彼、部長に私が責任をもって育てます、とか言って掛け合ったって聞いてるよ』
「え……?」
 そんなことは初耳だ。
 そもそも、態度ではなかった。
 最初に入らないかと聞いた時も、誘われたのかと思っていたら、「自分の実力で入れ」と言われたはずだ。
 少なくともそれに近いことを言われている。
 そして、入社して会った時も「本当に入社したのか」のようなことを言われているし、少なくともそんな態度だったと思う。
「そんなことは、ないと思います、けど……」
 メイフィも言う程ヴェルム本人を知っているわけではない。
 だが、その少ない印象でいいと思ったことはないし、リュークスでの話を聞く限り、悪い印象しか受けない。
 まあ、その中から必死に頑張っていいところを挙げるとするなら、頭が切れる事、仕事に、いや、仕事以外でも真面目であること、上の命令は逆らわないこと、くらいだろうか。
 少なくとも情で動くことは絶対にないと言い切れる。
 あの時のメイフィは、おそらく誰からも同情を買える状況にあったが、彼だけは同情などしなかった唯の一人と言い切れる。
『でも、ボクが聞いたのは部長だよ? 新人を寄こすってヴェルムさんが言ってたから、どんな子かなって、とりあえず教えてくれそうな人に聞いて回ったんだ』
「え? リーナさんが直接ですか?」
『……驚くところそこなのかな? ボクだって聞きに行くことはあるよ。部長室の壁には通気用の穴があってね』
 どうやら正面から部屋に入って聞いて来たわけではないようだ。
 とは言え、直接聞いて来たことには変わりはない。
 つまり、ヴェルムが部長に掛け合ったというのは本当だろう。
 彼が感情で動くことはない、とするなら、自分の中に才能があって、それに気づいてくれたという事だろう。
「ヴェルム次長って、どういう人なんですか?」
 そう考えると、なんだかそれだけで、肯定的に見たいと思ってしまうのが人間だろう。
 少なくともシャムレナよりは仲がいいリーナに、ヴェルムについて訊いてみたくなった。
『彼は鬼畜メガネだと思われているみたいだね、だけどそうじゃないんだ』
 そもそも、メイフィは彼が眼鏡をしているところを見たことがない。
『彼は、総受けだよ』
「総受け」
 総受けって何だろう?
 性格の事だろうか?
『彼は全ての男性から凌辱されるんだ。目いっぱい屈辱的に、尊厳も与えられず』
 彼女は何を言っているんだろう?
『そして、最後にはプライドをかなぐり捨てて、ただ快楽に墜ちるんだよ』
「は、はあ……えっと?」
『ボクの創作ではいつもそうなってるんだ』
 何となく、分かっていたが、愉しそうに語るので、止めるに止められなかった。
 だが、メイフィが聞きたいのはそんな想像、いや、妄想の話ではない。
「あの、そうじゃなくって、本当のヴェルムさんの事ですけど」
『本当の? いや、これもボクの中では本当(リアル)なんだけどね』
「はい、分かりました。そうですね、ヴェルムさんは総受けなんでしょう。その上で、お聞きしたいのですが、彼はどんな人となりなんでしょう?」
 諦めたメイフィは一旦それを受け入れてから受け流して、再度聞いた。
『うーん、まあ、真面目?』
「まあ、そうですよね?」
 それは、メイフィにも分かる。
 彼は真面目だ、あまりにも真面目だ。
 だから、別に自分を不真面目とも思ってもいなかった周囲が自分を顧みて不真面目だと思えてしまうこともある。
『真面目過ぎて隙がない。仕事は出来るけれど、信頼できない部下には仕事をさせない。だから、全部一人でやってしまう』
「確かに、仕事以外の事を考えてなさそうな気がしますね」
『人を変えようとしないんだ。人を変えるより自分が変わった方がコストがかからないって思ってるから』
 彼の一番の特徴であり、長所であり短所でもあるのは、その、全てを「コスト」で判断するところだ。
 給料を貰っている者として、自分の仕事も会社から見ればコストであり、同じ結果を最短の時間で行うよう考えることは望ましい姿勢ではある。
 だが、彼はそれを徹底し過ぎているのだ。
 彼のコスト管理には、人心は介在しない。
 心があると仮定するなら、彼が傷ついても、他の誰かが傷ついても、それがコストカットにつながるなら、迷わずそれを選択するのだ。
 おそらくリーナもシャムレナも、その被害を受けているだろう。
 シャムレナがヴェルムの業務指示で動かない理由を「余計なコストがかかるから」と口にするのも、彼への皮肉だ。
 自分や他人の感情には一切配慮せず、冷徹にコストカットだけを考える。
 だから、言われるのだ。
 「彼には感情がない」と。
『でもね、そんな彼だからこそ、間違いがないって信頼されてるし、ボクもそこは信頼してるんだ。そんな彼がメイフィちゃんはものになるって判断したんでしょ? それって凄いことだと思うけどな』
「そうなんですかね? でも、そんなこと一言も言ってくれてないですけど」
『それはみんな同じさ。ボクだって多分信頼されてるけど、褒められたことなんてないよ。前にちゃんとやったんだから誉めてって言ったらさ、給料もらってやる仕事は、ちゃんとやるのが当然だ。ちゃんと出来なかったら責任を取れ、なんて言うんだよ? そりゃそうなんだけどさ、そこは職場を円滑に動かすためにありがとうの一言くらいあってもいいんじゃないって思うんだ』
 確かに、コストを言うのであれば、ありがとうの一言などただなのだから、それを言うだけで仕事がうまく行くのならそうすべきだろう。
 だが、彼は無駄だと思うことは一切しないのだ。
 挨拶はコストもかからないが、することにも何のメリットもない、だからしない。
 本当に徹底しているのだ。
 だが、その彼に自分が採用されたというのも、どうやら事実らしい。
 自分はそれに見合うだけの活躍が出来るだろうか?
「……まあ、期待されていることだけは分かりました。どの部署になるかはまだ分かりませんが頑張りたいと思います」
「うん、頑張ってね。ボクもいい評価を伝えておくよ」
 顔は見せてくれないが、この前見た時には歳が近いと感じたリーナ。
 彼女が上司ならうまくやって行けるかもしれない。
 リュークスで拒否された以上、ここで頑張って行きたい。
 そう誓う、メイフィだった。



最終更新 2017/03/11 23:00:03




トラックバック: http://d-maki.jp/tback/tback.php/2017/03/11

2017年5月の日記へ2017年2月の日記へ
HOME